一文でいうと
政府などの権力によって発売・頒布を禁止された本。日本史では特に、戦前の出版法下で内務省が処分した出版物を指すことが多い。
短い概要
発禁本は、単に炎上した本や書店が自主的に扱わない本ではありません。一定の権限を持つ機関が、出版物の発売・頒布を禁止した記録を伴う概念です。
戦前日本では1893年の出版法などに基づき、図書やパンフレットを発行前に内務省へ納める制度があり、安寧秩序妨害や風俗壊乱を理由に処分されました。
戦前の内務省検閲、占領期のGHQ検閲、戦後の裁判・自主規制は、同じ「読めなかった本」でも仕組みが違います。
4つの区別
戦前の発禁
内務省が出版法などに基づき、発売・頒布を禁止しました。処分理由と日付が目録に残ります。
GHQ検閲
敗戦後、連合国軍総司令部の検閲が行われました。戦前の内務省検閲とは主体と制度が異なります。
戦後の裁判
出版後に刑法や民事法上の責任が争われる場合。チャタレイ裁判などが代表例です。
自主規制・絶版
出版社や流通、著者の判断による停止。公権力による発禁処分と同じ意味ではありません。
出版物が止められる4段階
出版前に納める
戦前の出版法下では、図書・パンフレット類を発行日の3日前までに内務省へ納入することが定められていました。
内容を分類する
政治・社会秩序に関わる「安寧秩序妨害」と、性・風俗に関わる「風俗壊乱」などが処分理由として記録されました。
発売・頒布を禁止する
処分を受けると市場での流通が止められ、押収・削除・閲覧制限など出版物ごとに異なる扱いが生じました。
資料として再発見する
残された発禁本や目録は、何を危険と判断したかを示す統治資料です。現在は国立国会図書館などが整理・保存・公開しています。
この節は全体像をつかむための案内です。作品ページは結末を代替せず、知識ページは確定事項と未解決部分を区別しています。
何が重要なのか
禁じた側の目録が残る
禁止出版物目録は、国家が何を恐れ、どう分類したかを示します。本の内容だけでなく制度の思考を読めます。
禁止されても本は残る
副本、返還本、海外所蔵資料、複製によって、消そうとされた出版物が研究資料として生き残っています。
「発禁」を広げすぎない
不人気による絶版、契約終了、書店の判断、図書館の除籍まで発禁と呼ぶと、権力による禁止の歴史がぼやけます。
発禁本は「内容が正しい本」なのか
禁止された事実は、その本が正しいことも優れていることも証明しません。差別的・扇動的な出版物が規制対象になる場合もあります。重要なのは、内容の評価と、誰がどの権限・手続で流通を止めたかを別々に検討することです。
知っておきたい
基本情報
- 対象国立国会図書館の案内は、戦前期の発売頒布禁止処分を受けた図書を「発禁本」として扱います。
- 制度1893年の出版法、新聞・雑誌には新聞紙法が用いられました。
- 納本図書・パンフレット類は発行日の3日前までに内務省へ納入。
- 目録『禁止出版物目録』『禁止単行本目録』など、内務省警保局の記録があります。
- 所蔵終戦後に接収された資料の一部は1970年代に国立国会図書館へ返還され、残りは米国議会図書館にも所蔵されています。