まず、三語だけ。
三分で、輪郭を得る。
初音ミクは2007年8月、ヤマハのVOCALOID 2技術を使う音楽ソフトウェアとして発売された。声優・藤田咲の収録音声を素材とし、利用者が音程、長さ、歌詞、強弱などを入力して歌声を作る。パッケージには青緑色のツインテールを持つキャラクターが描かれた。この時点で完成済みの歌や物語が与えられたのではなく、購入者がプロデューサーとして何を歌わせるかを決める設計だった。
発売後、利用者が作った曲がニコニコ動画などへ投稿され、別の作者がイラストを描き、動画を作り、「歌ってみた」「演奏してみた」へ派生する循環が急速に広がった。初音ミクは作品の最終的な作者ではない。作詞、作曲、調声、絵、映像、演奏など異なる技能の人をつなぐ共通記号として働いた。ここから多くのボカロPやネット発の音楽家が知られるようになり、ライブ、ゲーム、広告、海外イベントへも展開した。
創作が広がった背景には、何でも無断で使える状態ではなく、権利者が利用の範囲を言語化したこともある。クリプトンは2009年、非営利・無償の二次創作を一定条件で認めるピアプロ・キャラクター・ライセンスを公開し、小規模な有償頒布には別の仕組みを設けた。初音ミクの核は、技術だけでも人気キャラクターだけでもない。制作道具、投稿プラットフォーム、参加しやすい象徴、創作を支えるルールが組み合わさり、作者が次の作者を呼ぶ生態系になった点にある。
事実と留保を分ける。
確認できたこと
- 初音ミクは2007年8月に発売された歌声合成ソフトウェアで、藤田咲の音声をもとに制作された。
- クリプトンの公式資料は、ユーザーがウェブへ多数の楽曲・動画を投稿したことで大きなネット上の創作運動が生まれたと説明している。
- ピアプロ・キャラクター・ライセンスは、一定条件の非営利・無償の二次創作を、個別の連絡なしで行える範囲として整備された。
留保すべきこと
- 初音ミクを「AIが自動で曲を作って歌う存在」とするのは誤り。基本は人が歌詞、旋律、発音、表現を入力・調整する制作ソフトである。
- 「初音ミクが作曲した」「初音ミクの公式曲」と一括りにすると作者が消える。曲ごとに作詞・作曲・調声・映像などの制作者を確認する必要がある。
大外しを防ぐ
「架空の人気アイドル」とだけ言うと外す。物語を消費するキャラクター以上に、多数の作者が作品を公開し、互いに再創作するための声・姿・ルールの組み合わせである。
理解の要点
初音ミクは、一つの完成作品ではなく創作の接続点である。誰が歌わせ、誰が描き、誰が次の表現へ渡したかを見ると、ネット文化としての本質が分かる。